中小企業の間でよく耳にするのが、 「何度広告を出しても反応がない」 「面接に来る応募者は、求める資質に達していない」 という悩みです。
これらの問題を抱える企業の採用広告には、特定のパターンが見受けられます。 その共通点とは、「会社の魅力」が文章に含まれているということ。
「え? それってダメなの?」と思うかもしれませんが、会社の魅力を採用広告に書くこと自体は問題ありません。ただし、その際に注意すべき事項があります。
それは、「自社の魅力」と考えていることが、実は求職者にとっての魅力になっていない可能性があるということ。例えば、あなたが「5年連続増収増益」を自社の魅力として挙げたとしましょう。これは確かに素晴らしい実績です。しかし、求職者にとってはどのようなメリットがあるのでしょうか? 捉え方は人それぞれです。
- 「売上ノルマや経費節減が厳しいのではないか?」
- 「高い給料が期待できるのでは?」(だけど、実際の給料はそれほど高くない)
- 「安定した生活が送れそうだ」(自分だけ頑張らなくても大丈夫そう)
- 「自分のやりたいことに挑戦させてくれそうだ」(会社の経費で資格を取りたい)
- 「それって、どういうこと?」(特に感想なし)
会社の強みや魅力を明確に表現しないまま、求職者に解釈を任せてしまうと、その結果として求職者の心を掴むことが難しくなり、ミスマッチや早期退職を引き起こす原因になり得ます。
では、このような問題を避け、求める結果を得るためには、どのようにすべきでしょうか? そのためには2つのポイントが存在します。
1つ目のポイントは、「働く魅力」や「仕事の喜び」を文章化すること。これは、求職者が得られる給与以外の「心理的報酬」を具体的に伝えることを意味します。これにより、求職者は自社の魅力や他社との差別化要因が何であるかだけでなく、それが具体的にどのような働き方や生活を実現するのかを理解することができます。
そして2つ目のポイントは、心理的報酬の選択を広告作成者が一方的に決めないこと。これは、求職者のニーズや期待を十分に理解し、それに応える形で広告を作成することを強調しています。
以上の2つのポイントを押さえ、採用広告を作成することで、求職者の心を掴み、より良い採用結果を得ることが可能となります。
まずは、給与以外の働く動機となる心理的報酬とは
何かからお話しします。
私は、この心理的報酬を分析し、
SEARCHという6つの切り口で分類して、
フレームワーク化しています。
給与以外の働く動機となる心理的報酬
<6つの視点SEARCH>
S;Stability(安定・安心・堅実性・福利厚生)
E;Excitement;(ワクワク・創造・変化・チャレンジ)
A;Achievement(達成・成長・探究心・専門技術)
R;Recognition(承認・出世・憧れ・成果)
C;Contribution(貢献・奉仕・社会性、笑顔、環境)
H;Human(仲間・チームワーク・家族・コミュニケーション)
S;Stability(安定・堅実性・法令遵守・福利厚生)
その会社にいる事によって得られる生活の安定感、
結婚や出産、家を持つなどのライフプランや
未来予測が出来そうな堅実感や、公私に渡って
バランス良い暮らしが出来そうな堅実感です。
E;Excitement;(ワクワク・創造・変化・チャレンジ)
その会社で働く事によって得られるワクワク感、
まだ世の中にないものを創り出し、変化を巻き起こしたり、
新しいチャレンジをしたりする高揚感です。
A;Achievement(達成・成長・探究心・専門技術)
その会社での業務を通じで得られる人間的・技術的成長、
何かを研究、追求したり、専門技術を身につけたりするための
経験や努力を通じて得られる達成感です。
R;Recognition(承認・出世・憧れ・成果)
その会社で成果を出す事によって得られる可能性のある
経済的な報酬や役職、会社や社会からの賞賛、
子供の頃からの憧れを手に入れたりして得られる、
承認される喜びです。
C;Contribution(貢献・奉仕・社会性、笑顔、環境)
その会社での活動を通じて得られる人や社会、環境などの
問題解決に対する奉仕、それによって生み出される笑顔を
身近に感じる事によって得られる貢献や、感謝をされる
喜びです。
H;Human(仲間・チームワーク・コミュニケーション・団結)
その会社で得られる仲間や、その仲間と感じられる
チームワークや一体感、様々なコミュニケーションや団結感で
得られる孤独でない人間的繋がりを実感出来る喜びです。
もしかしたら、この他にも働く動機となる特殊な
心理的報酬があるかもしれませんが、
ほとんどの人はこのような心理的欲求を
満たすために働く=出社や努力をしていると
言っていいでしょう。
もっと言うと、働いて稼いだお金も、これらの欲求を
満たすために使っているという事になります。
ですから、会社の魅力や強みそのものではなく、
それらがある事で、求職者が将来どのような
感情を得られるかを言語化することが
人を惹きつける採用募集記事を書くための
第一歩となります。
もう一つ大事なことは、心理的報酬の項目選択を、
広告記事の書き手が勝手に決めないということです。
経営者のようにすでに経済的に成功した方は
「人生で大事なものはお金じゃなくて、
社会に貢献することだ」という考え方を
持っている方も多いように見受けられます。
しかし、すべての求職者が同じように社会貢献の
ために働いているとは限りません。
中には様々な理由で目の前のお金が必要な人も
いるでしょう。
また、何か明確な目標を持って、
これからどんどん成長していけるなら、
多少苦労しても構わないという人もいるでしょう。
このような様々な働く動機を網羅するために、
SEARCHの視点を利用してみてください。
これらの6つの視点での働く魅力を自社では
どのように得られるかを漏れなく募集記事に
散りばめて表現すると、面接希望者が
グッと増えてきます。
もし、まだ自社にこの魅力が足りていない、
と感じられるものがあれば、
「こういう会社を目指しています!」という
ビジョンを語っても構いません。
(もちろん、その努力はしてくださいね。)
募集記事に載せる写真も、
これら6つの心理的欲求が満たされている状況を
想起させるものをバランス良く散りばめると
効果的です。
「お金のために働く社員なんて要らない」
「うちの理念に共感しない社員は要らない」という
考え方も分かるのですが、それは、選考の中で
見極めていけば良いのです。
採用戦略の大原則は、候補者を広く集め、
選考段階で会社の理念やビジョンを
共有してもらいながら会社に合う人を
絞っていくということです。
もし、面接希望者が殺到して手に負えない、
という状況でもない限り、この広く集めて絞っていく
という大原則は変えない方が賢明です。
求職者はその募集広告記事やインターネットなどで
調べられる事以外、何も会社の情報を
持っていません。
募集広告記事に少しでも不安があれば、
応募する必要はないのです。
特に、ポテンシャルの高い求職者こそ、
焦って仕事を探す必要はないからです。
採用広告記事を見てみると、中には給与や
会社の住所、休日の規程など、
求人票に書くべき「労働条件」しか
書かれていないケースも見受けられます。
これでは、「選ばれる会社」にはなりません。
労働条件で就職を決める人ではなく、
会社の「本当の魅力」を知った人に
入社を決めて欲しいものです。
そして、もし、このSEARCHの視点に
基づく心理的報酬を会社から提供することを
意識できていなければ、それが採用難や
望まぬ離職を誘発しているという可能性も
あります。
長期的な会社の魅力の構築を意識し、
これらの環境づくりに投資することは
会社の永続的な発展に繋がります。
もし、今、求職者に訴えられる会社で働く魅力が
乏しいな、と感じているのであれば、
是非、新しい魅力を創ってください。
きっと「いい会社」になっていくはずです。